大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和24年(れ)1410号 判決

本籍並びに住居

静岡市北安東一二一四番地

農業

伊藤光夫

当二六年

本籍並びに住居

同市同所四〇六番地

農業

青島寿夫

当二五年

右に対する強姦致傷各被告事件について昭和二三年六月二九日東京高等裁判所の言渡した判決に対し各被告人から上告の申立があつたので当裁判所は刑訴施行法二条に従い次のとおり判決する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人伊藤光夫弁護人宗宮信次、同池田浩一の上告趣意第一点について。

論旨は、「判示の傷害が既に青島被告によつて加えられ終つた以上、重ねて同一傷害が後から伊藤被告によつて加えられるということはあり得ない」との論拠に基いて、原判決の理由不備ないし齟齬を主張するのである。しかしながら、判示の傷害が既に被告人青島によつて加えられ終つたという事実は認められないし且つ原判示に副わない事実の主張である。そればかりでなく原判決の採つた諸証拠に照らし殊に被害者永田たねに対する昭和二二年一〇月一八日附検察事務官聴取書中の同人の供述の中に「その男等から強姦された際陰部から二度共出血した」とある点からしても、被告人伊藤もまた永田たねに対し傷害を被らしめたと認定した原判決には所論の違法は存在しないものということができる。それ故、論旨は採ることを得ない。

同第二点について。

原判示の処女膜裂傷は刑法一八一条の強姦致傷罪の致傷に当ることは、すでに多くの判例の存するところであり、今なおその変更の必要を認めない。また所論のことく成熟期にある処女と一三歳未満の処女とによつてその取扱を区別すべきものとは考えられない。論旨は理由がない。

同第三点について。

原判示の傷害は刑法一八一条の強姦致傷罪の致傷に当るものと認められるから、非親告罪を構成することは明らかである。それ故、所論告訴の取下にかかわらず、原判決が強姦致傷罪をもつて処断したのは相当であつて違法のかどはない。論旨は採るを得ないのである。

同第四点について。

所論は、弁護人は原審において「本件は単純強姦罪と認むべきであつて、被害者の告訴が取下げられた以上免訴すべきものである」旨公訴権消滅免訴の原由たる主張をしたから、原審はこれに対する判断を示すべきであつたにかかわらずこれを示さなかつた違法があると言うのである。しかしながら、右弁護人の主張は単純強姦罪の事実を前提とするものであるが、原判決は強姦致傷罪の事実を認定判示することによつて、単純強姦罪の事実を否認し、従つてこれを前提とする弁護人の主張全部を否定していることは明白であるから、所論は理由がない。

同第五点について。

所論は、本件のごとき非現行犯事件につき捜査機関が強制訊問をすることは訴訟法上許されないところであり、かかる訊問は違法であり、その訊問調査は裁判上証拠力がなくかかる訊問調書を証拠とした原判決は違法であると主張する。しかしながら、所論訊問調書中被告人伊藤光夫及び同青島寿夫に対するものは同人等が昭和二二年一〇月四日夜の犯行の後同月一三日夫々親戚の者に伴われて静岡署に出頭、同日刑訴応急措置法八条一号による逮捕状に基き逮捕せられ、被告人伊藤光夫に対しては翌一四日所論の司法警察官訊問調書が作成され、被告人青島寿夫に対しては翌々一五日所論の検事訊問調書が作成されたものである。また被告人海野正男は前記犯行の翌五日逮捕状に基き逮捕せられ、その翌六日同人に対する所論の司法警察官訊問調書が作成されたものである。それ故、所論の訊問調書は、何れも所論のいうがごとく「捜査機関が非現行犯事件たる本件を現行犯事件として取扱い」逮捕状なくして逮捕し強制訊問を行つて作成されたものではないのである。そして刑訴応急措置法八条に基く逮捕状による被疑者逮捕の場合にはその被疑者を受取つた司法警察官又は検察官はその被疑者を訊問することができるのである(昭和二四年(れ)第七七六号同二六年三月二八日大法廷判決判例集五巻四号七〇四頁参照)論旨は、それ故に理由がない。

同第六点について。

逮捕状によつて適法に逮捕された者の訊問を録取した調書であるとの一事をもつて、所論のごとく「被疑者を強制的に訊問して被疑者に不利益な供述を為さしめた」訊問調書であると速断することはできない。本件記録において訊問を強制したと認むべき何等の証跡がない。この点において所論の違憲主張はその前提を欠くものであつて、論旨は採るを得ない。

同第七点については被告人青島寿夫の弁護人田野功の上告趣意に対する説明によつて了解すべきである。

被告人青島寿夫弁護人田野功の上告趣意一、について。

所論は、本件の場合において刑法五四条一項前段を適用することは誤りであるから、原判決は破棄さるべきであると主張する。しかし所論は、被告人等の行為全部を一個の行為で数個の罪名に触れる一罪として処断した原判決を非難し、右は数罪であると主張するものと認められ結局被告人に不利益な主張をするものであるから、上告適法の理由とならない。

同二、について。

所論の理由のないことは、弁護人宗宮信次の上告趣意についての説明によつて了解すべきである。

よつて旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。

検察官 十蔵寺宗雄関与

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎 裁判官沢田竹治郎は退官につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 真野毅)

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